2  序論「ディスタンクシオン」の方法論

対応分析(CA)は、少なくとも彼の論文”Anatomie du Goût”(訳注「嗜好の解剖学」邦訳未)(Bourdieu & Saint-Martin, 1976)以来、ピエール・ブルデューの仕事において使われており、後に本『ディスタンクシオン』(ブルデュー 1979)に取り上げら、ライフスタイルの画期的な調査票の分析に用いられることになる。ここで行われたタイプの分析(以降「ディスタンクシオンのパラダイム」と呼ばれることになる)においては、基本的なデータセットは、Individuals \(\times\) Properties table(個体 x プロパティ表)であり、基本的な出力は、個体のクラウド1とプロパティのクラウド(雲)という2つのポイント・クラウド(点雲)から構成される。二つのクラウドの結合した検討(joint study)を基礎に解釈がおこなれる。 「ディスタンクシオンのパラダイム」は、社会空間の構築と調査のための調査票分析において、ブルデューと彼の共同研究者たちによって継続的に用いられている。“Actes de la recherche”2の最近の号においても、Sapiro(1996)(「ドイツ占領下のフランス作家の研究」)、およびLebaron(1997)(「経済研究」)を見ることができる。

調査票の幾何学分析に関した報告に際しては、ブルデューの方法によってデータを分析し解釈しようとしている国際的コミュニティの社会学者を念頭においている。そのことが「ディスタンクシオン」を導きの糸として、ブルデューの社会空間の構築と幾何学的データ解析(GDA)の間の特別な関係を解説するよう私たちを動機付けている。

『ディスタンクシオン』同様に、「Anatomie du Goût」(1976)での 個体\(\times\)プロパティ表を分析するためにブルデューにより参照されたテクニックが「対応分析」であったことは銘記されたい。その頃から、こうした表に対して 多重対応分析(MCA)として知られている方法で調査票の分析をすることが標準になっていった。70年代後半以降、ブルデューと彼の同僚たちによる殆どの分析では多重対応分析が体系的に用いられている。本論文においてなされる方法論的なコメントは、 MCAの厳密な特性を越えて、個体\(\times\)プロパティ表に対して適用可能である。


  1. 訳注:空間にプロットされた個体ポイントによる「雲」↩︎

  2. 訳注 直訳では「研究行為」だが、磯先生からコメントをいただく。「ブルデューの創刊した学術誌Actes de la recherche en sciences socialesは、『社会科学研究学報』などと訳されることが多いです。Actes de la rechercheで「学術誌」というような意味になります。」↩︎